コーヒー屋になるまでの話。②

やめること、はじめること。

コーヒー屋をはじめることは、元の仕事をやめることだった。

異業種への転職。

私は元々、食品分析を行う財団の職員だった。夫は地方公務員。仕事をやめたいという積極的な気持ちは正直なかった。でもやりたいことができてしまったのだ。

前職のことは、好きだった。

私は大学院卒業後に会社に就職した。本当は大学で研究者になろうと思っていた。海洋生物の行動生態学を専攻していた。論文を書くのも学会発表も得意だった。でも、自信が無かった。成功する自信、継続する自信、それが無かった。研究に没頭し、芽が出ない時期を乗り越え研究者として食べていく・・・きっとできない。しっかり稼いで程よく遊んで社会のためになっているという自負もあってという会社員ライフに憧れてしまった。つまりは一度目指した道から逃げたのだ。

そんな気持ちで就職。希望の部署にも入れない。会社員1年目はやめたかった。でもとてもとても人に恵まれた。仕事内容はお客様対応。分析試験の内容を説明し、結果についても一緒に考察する。法律の知識や化学の知識が要求される仕事だった。人に説明して納得してもらう。自分の頭にあることをわかりやすく説明できると気持ちいい。そして理系の人しかいない職場の人間関係や上司からの評価はとてもあっさりさっぱりしていた(理系だからかはわかりませんが)。仕事は肌に合っていたし、会社は私にとって居心地がよかったのだ。

でも、「一生この仕事でいいのか?」「自分の力を100%出して生きているか?」この疑問が頭から離れない。そんな風に思いはじめたのは5年目あたりからだったと思う。

口に出したら、はじまってしまった。

そもそもカフェ開業(後にコーヒー屋に変更)を決断した時、私たち夫婦はまだ結婚前だった。
一緒に昼寝していた休日、ふと提案してみた。「どっちか一人がやりたいことにチャレンジして、もう一人がそれを経済的に支える。これからじゃんけんしてどっち役になるか決めようよ。」

この話が盛り上がった。薄々感じていたけど、彼も「この仕事で人生終えていいのかな」という気持ちがあったようだ。4時間くらい話した結果、二人で地方でカフェをやるという結論に達していた。

夫は地方公務員の事務職だった。元々消防士を目指していたが、事務職の方に合格してしまったので諦めてしまったようだ。

二人とも一度諦めた道にはもう興味が無くなってしまっていたが、何かやりたい気持ちを燻らせていた。それが二人いることで気持ちが大きくなってしまったのか決意してしまったのだ。(ちなみに一緒に開業するから結婚するという話にその後なった。)

やめたい気持ちじゃ、どこにもいけない。

転職にあたって、前の仕事が嫌という気持ちではなく、カフェを開業したいという気持ちが動機だった。

プラスの動機が原動力であったことは重要だったと思っている。会社をやめたいからという理由だったらきっといろんな壁を越えられなかっただろう。個人で店を開業するというのは、決断の連続だ。どこで、どんな風にお店をやるのか。誰に来て欲しいのか。迷った時に導いてくれるのは「なんのために開業したいと思ったのか」という自分の想いだ。

はじめることは、やめることだ。でもやめることは必ずしもネガティブなことではない。前向きな気持ちでやめた過去は財産になる。はじめた後は、やりたいプラスの気持ちが常に自分を導いてくれる。

あの時、やめない方を選んでいたとしても、私は今日も笑っていたと思う。理由を持って選ぶということが重要なのだ。会社をやめることで人生が開けるなんて思っている人がいたら必死で止める。ネガティブな心はどこにも行けないから。

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