コーヒー屋になるまでの話。11

お店の強みは何ですか。

どんな「強み」を持つお店を作るのか。他の店と違う点はどこなのか。

独立する時、自分たちのお店の強みはなんなのかを考える必要性を感じた。

当時読んでいた開業の指南書には必ず書いてあった。

「あなたのお店のセールスポイントはどこですか。どんな方法で他店と差別化が図れそうですか。しっかり自己分析しましょう。」こんな類の言葉がプレッシャーだった。

親族を説得する上でも、お金を借りる上でも、強みを持っているかどうかはとても重要視された。

でも正直に言おう。

開業当時、私たちだけが持ち、「それなら大丈夫だね!」と人に言わせるような強みなんて無かった。

「たくさんコーヒー屋さんあるけど、何が違うの?」

「みんなに勝てるような強みがあるの?もしくは秘策があるの?」

大体は私たちの開業を否定的な目で見る人、もしくは信用していない人からの質問だ。

だけど声を大にしてこの質問に答えられないことに、当時大きな焦りを感じていた。

どうしてお店をやりたいのか、お店でどんなことがしたいのか、それをどうやって伝えるかを考える。

開業して2年が経とうとする今、お店の強みを胸を張って言える。やりながら分かったこともあるし、自信を持って言えるようになるまで時間がかかったというのもある。

私たちの場合、お店の強みはお店を作る動機になったストーリーそのものではないかと思う。加えて美味しいコーヒーの定義を決め(焼きたてであることだ)、それをきっちり実践することで品質の強みも持つことができる。しかし繰り返しになるが、それらは決して誰にも思いつかないような唯一無二のものでは無いのだ。

コンセプトの話をすれば、

前章で書いたように、私たちは「人を癒したい」という大きな目的を叶えるためにお店を作ることにした。

お店では自然に触れてリラックスし、「自分に帰る」という時間を体験してただきたかった。その時間がうちに帰っても持続するように、想いを込めた商品を連れて帰って欲しいと思っている。

実質的な部分では、

自宅で美味しいコーヒーが長らく楽しめるように、新鮮なコーヒー豆を提供したい思いがあった。焙煎から4日以内の豆を売ることでそれを実現しようと考えた。他店ではあんまり見られない試みだが、これは必ず「あの店のコーヒーは美味しい」という評価に繋がると思った。「焼きたて」の呪縛のせいでロスが出るというデメリットが発生しないように、豆の生産管理には細心の注意を払う必要がある。

上記のことを読んで、どう感じるだろうか。類を見ない奇策だと思う人がいるだろうか。私はそうは思わない。誰にだって思いつきそうなことである。

一生懸命考えたありふれた強みを、丁寧に発信した。

ホームページやSNSに文章を掲載したり、イベントで冊子を配ったり、自分たちのお店のストーリーや、自分の中にある想い、そしてコーヒーの美味しさについてどう考えているかをひたすら発信した。

発信のために文章を書いているとお店を始めた気持ちの軸が見えてくるようで自分も面白かった。

こんな長文を誰が読むんだろうと思うこともあったが、意外と読んでくれた人からの反応はあった。

伝えることが最も重要。

社会に届けたいものがあってお店を始める人はたくさんいると思う。始める時のストーリーはその人固有のものであるが、本当に伝えたい芯のメッセージは実はかぶっていたりするものだ。

それに焙煎してから時間が経ったコーヒーが美味しくないのは、コーヒーに詳しい人なら当たり前に知っていることだ。「焼きたてを売ろう!」なんて名案でもなんでも無い。

一番大切なのは、それらの自分で決めたお店の売りを守り、そして一生懸命伝えることだ。

お客さん、これからお客さんになるかもしれない人、仕事で関わる人たちに、私が持っている熱を言葉で届ける必要がある。しかも一度ではなく継続的にだ。

これができていない人が意外に多いように感じる。お店のSNSを見ていても、「今日はお休みです」とか「今週のメニューはこれです」とか業務連絡ばかりで熱量やエンタメ性が全く感じられないことが多い。

「発信が大事」ということはこの時代においてみんなわかっていると思う。でも発信すればなんでもいいわけでは無い。

自分が考えた「強み」がありふれたものでも気にしない。大切なのはあなたの言葉で伝えることだ。

私はコーヒー屋を始める前はカフェ好きの会社員だった。いろんなカフェに行きいろんな雑誌を読み、その上で作った自分の店が誰かとかぶっていても何ら不思議では無い。元からそんなにアイデアマンでは無いし、たったひとつの光る才能を持っているという自負もない。ありふれたものを「自分のお店の強みにしよう」と思ってしまう自分を情けないとは思わない。

大切なのはそれを自分の言葉で人に伝えることだ。熱量を持って。

自分の言葉で発信をして、やっと人に「強み」が届く。

自分の言葉で伝えて初めて、「他のお店と違う」と感じてもらえる。

今後根幹にあるコンセプトは変わらなくても、その言葉は変化していくだろう。なぜなら私も歳をとり経験が増えて変わっていくのだから。時代も流れていくのだからちょうど良いと思う。根幹を大切にしながら今の自分の口から出てくるものを形にしていけばいい。

これから独立したい人に伝えたいのは、強みが無いのはダメだけど、「大した強みじゃないなぁ」と思う必要はないということだ。

自分の平凡さを認めて、それでもやりたいという熱量の方を大事にしてほしい。そうすればきっと発信したくなるはずだから。そしてそれは誰かの心にきっと届く。

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